生きがいの構図

H27.1.15 岡﨑敏郎

人生の「生きがいの構図」とは、人生の三大不安「貧困」「孤独」「病気」と、生きがいの指標「富」「労働」「健康」を対比させながら、その関連性をまとめたもの（図１）で、自覚プログラムと表現プログラムの二つから構成されている。

図１．人生の生きがいの構図

●自覚プログラム（図２）

①貧困と富との関連性

マズローの欲求五段階説の中で最上位の自己実現欲求は自分の持っている能力・可能性を最大限に引き出し、自己成長やあるべき自分になりたいという成長欲求（他四つの欲求は欠乏欲求）とされている。楽しくない人生は、いくらお金があっても無価値である。お金をいくら持っているかより、どれだけ有効にお金を使っているかであり、少ない年収でも、心豊かに生きた方が得策である。すなわち、少額のお金で暮らすことと豊かになることは表裏の関係にあるといえる。真の富の基本的価値が「自己実現」に収斂されるということは、富の概念の基本は、最低生活費+α（自己実現費）となる。最低生活費という概念からは、人間の最低次元の欲求である生存・経済的欲求を満たすもので人によって異なるものである。自己実現という概念からは、人間の最高次元の欲求である自己発現の欲求(尊厳と自尊の欲求、自己実現の欲求)を満足させてくれる重要な要素であることを指摘できる。ここに生活費としての思考基準として、最低生活費＋α（自己実現費）を重視した生涯経済プランの必要性が生まれてくる。

②孤独と労働との関連性

社会的存在としての人間が、その生存を維持するために行う活動を、生産と消費に大別すれば、生産を支える人間の活動が労働である。労働（Labor）は労苦をともなう活動というニュアンスがあるが、本来労働（Work）とは人間が自然に働きかけて生産手段や生活手段などをつくりだす活動なのである。この活動が職業活動と余暇活動であり、人間は労働（職業活動・余暇活動）を通じて相互の連帯感によって結び付けられている。社会的人間としての職業活動や余暇活動がなくなるということは、人間同士の結びつきや連帯感を失うことを意味し、人間の社会的欲求（所属と愛情の欲求）を満足させることができなくなる。もし、孤独から抜け出そうとするならば、職業活動や余暇活動から生涯を通じてのライフワークを心がけ、社会における人間関係を密にしてアイデンティティを保つ努力をすることが大切である。ＱＷＬ・ＱＬＬを高めていき「社会的役割」を果たすことで孤独でなくなる。社会的役割を考えていないキャリア開発はいくらやっても無意味である。このライフワークを築き上げるために、時間の使い方・キャリア開発プラン（ＣＤＬＰ）が必要となる。キャリア開発プランは生きがい開発プランでもある。

図２．自覚プログラム

③病気と健康との関連性

人間がその最高余命まで健康を保つことは大切であるが、その健康の意味は、単に疾病や病弱が存在しないということではなく、肉体的・精神的・社会的に完全な良好状態にあるということ「一病息災」である。

病気を早期に発見して、それにきちんと対処していけば、「一病息災」となる。ＷＨＯ憲章の前文で、「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に病気あるいは虚弱でないことではない」と定義されている。医学が未発達で病気に対する有効な手段がなかった時代には、病気から逃れ生命を維持することが最大の関心ごとであり、その時代には健康とは「病気あるいは虚弱でない状態」であったのである。しかし、医学が進歩し医療体制が整備された現在は、健康とは、「単に病気あるいは虚弱でない状態という狭い意味ではなく、健康をもっと積極的・主体的に、一人ひとりが充実した快適な生活を送れる状態」であるととらえられている。健康で生活するということは、人間の生存・経済的欲求(安全の欲求、生理的欲求)を満足させてくれるものであり、上手に歳をとることを心がけることが大切である。そのためには、単に身体的な健康管理だけでなく、精神的な心の健康管理をも含めた心身の健康管理プランが必要となる。

「貧困」「孤独」「病気」を危機とすれば、「富」「労働」「健康」は目標となる。よって、ライフプラン（生涯生活設計）は、（危機を乗り越える）危機管理と（目標を達成する）目標管理の両面を持つ実行計画である。

●表現プログラム（図３）

ライフプラン（生涯生活設計）を家づくりにたとえると、　① 図１．人生の生きがいの構図の心身の健康管理健康プランと生涯経済プランが家づくりの土台に相当する。健康については、健康に対する考え方「一病息災」をしっかりもって、自分の健康尺度をつくること、健康的な生活習慣をつくること、そのためには、食事と運動と休養のバランスを保つ必要がある。生涯（家庭）経済については、これからの収入と支出の概算をつかむこと、計画的で上手なお金の使い方を考えること、お金の管理と運用を上手に行い、｢自己実現費｣のある若干余裕のある経済力を持つ必要がある。　② 図１．人生の生きがいの構図のキャリア（生きがい）開発プランの生きがいは、健康と家庭経済を土台としてその上に立てる柱に相当し、仕事の中に、余暇活動の中に、地域活動の中に、そして家庭の

図３．表現プログラム

中に求めることが出来るが、それぞれバラバラでなく組み合わせにより重なり合って形成している。よって、どの中にいようとアイデンティティを保持するためには「社会的役割」を果たさなければならないのである。更に、ＱＷＬ・ＱＬＬを高めていく努力が必要となる。この生きがいを実践していくための土台が健康と家庭経済であり、生きがいこそ、生きていることの素晴らしさを実感するものとなる。　③ ライフワークは柱の上に乗せる屋根に相当し、生きがいの中から自分のやりたいものを選んで、生涯にわたってこれに取り組んでいくことである。それは仕事のことでも、余暇活動のことでも、地域活動のことでも、家族のことでも、何でもよい。この活動が生涯労働、生涯学習、生涯奉仕、生涯愛情へとつながっていく。これが人生目標の道標（生涯労働・生涯学習・生涯福祉）でもある。　④ 価値観・人生観はその家が立っている地盤に相当し、その人の健康、家庭経済、生きがい、ライフワークを方向づけ決定づけるものである。

すなわち、豊かな人生をつくるライフプランの内容は、健康と家庭経済を上手に使って生きがいをつくり、生きがいの中から生きる喜びを実感するライフワークをみつける。そして、これらに大きな影響をあたえるものとして価値観・人生観がある。

人生の三大不安としての「貧困」「孤独」「病気」に対応する概念をもって、悲惨から生きがいある人生へ転換することが出来る。そのためには生涯経済プランとキャリア（生きがい）開発プラン、さらに心身の健康管理プランの３つを基本として、ライフプラン（生涯生活設計）を計画し、調和やバランスを保ちながら実行することが大切である。ライフプラン（生涯生活設計）は、｢時間の使い方｣であり、時間の使い方は、いのちの使い方・人生の過ごし方と密接に関係することになる。そして、人生の生きがいは、日々の生活の仕方のなかに自助努力によって自らが探し求めるものであり、人生の現実の生活環境にフレキシブルに適応していく「蛻変の人生哲学」をもつよう自助努力することが必要である。この「蛻変の人生哲学」を構成するキーワードは、自己実現費、社会的役割、一病息災の三つが基本であり、これらを具現化したものがライフプラン（生涯生活設計）である。

以上、「人生の三大不安」と、そのリスクをチャンスに変える「生きがいの指標」との関連性をまとめたものが、人生の「生きがいの構図」であり、PREP理論の集大成となっている。（終）